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うつ病への行動活性化療法
うつ病の方への心理療法として効果が示されている行動活性化療法について書いてみます
日本のうつ病治療は薬物療法が主流です。しかし、軽症うつ病に対しての薬物療法の効果は有害事象や費用とのバランスが悪く、イギリスではすでに初期治療としての選択は推奨されていません。日本うつ病学会においても、軽症うつ病には支持的精神療法と心理教育が推奨されています。うつ病治療で原則とされてきた休息に関しても有効性は明確でなく、不適切な休養、休職、により慢性化につながる可能性が指摘されています
うつ病への心理療法として効果の検証されているものに認知行動療法がありますが、その中で最も代表的なものは、「認知再構成法」と「行動活性化療法」です
認知再構成法に関してはこちらに書いています
うつ病や気分の落ち込み、不快な感情への認知再構成法のすすめ方
認知再構成法と行動活性化療法にはどちらも同等の効果がある、または重症のうつ病に対しては行動活性化療法に高い効果を示した研究があります。「思考」という曖昧で高次の機能を用いるよりも、「活動を変える」という客観的で簡便な方法の方が実行しやすいのです。
行動活性化は「療法」というほどしっかりした理論と手続きに基づいたものでなくとも、活動記録表を用いて簡便に行うこともできます
厚生労働省のうつ病の認知行動療法マニュアルでは、認知再構成法には最大で7セッションを使いますが、行動活性化は活動記録を使った2セッションです。
TRACE高宮でうつ病の方に認知行動療法を用いる時は、まず、1日どんな生活をしているのかを把握するために活動記録表を書いてもらいます。「何をしている時に、どんな気分になっているか」モニタリングしてもらい、気分良く過ごせる活動を増やします。その後は生活リズムを整えたり、休息時間を確保したり、達成感を感じられる義務的な活動を増やしたり、抑うつ気分を維持させてしまっている行動を長期的にメリットのある行動に置き換えたり、目標を決めて様々取り組みます。活動記録を書く中で報告された自動思考(気分を落ち込ませる思考)に対して認知再構成法を適用していく、という流れになることも多いです。自然とマニュアル通りの流れになっているのが不思議です。
行動活性化療法とは
行動活性化療法ではうつ病の維持要因として、「回避行動」に注目します
非常に簡単な説明をしますが、学習モデルに基づくと人の自発的な行動には2つあります。
- 快行動 人はメリットが得られる行動を繰り返す
- 回避行動 人は不快な事象から逃れる行動を繰り返す
そしてうつ病になると「不快な事象から逃れるための回避行動が増え、快行動が減少する」とされています。
例えば朝目が覚めて部屋が寒い時、快行動に基づくと
- 目が覚めると部屋が寒い
- 起きてストーブに火をつける(快行動)
- 部屋が暖かくなる(メリット)
となりますが、回避行動に基づくと
- 目が覚めると部屋が寒い(不快な事象)
- ふとんに潜る(回避行動)
- 寒さから逃れられる(不快な事象の減少)
となります。
そうして仕事を休んだり昼まで寝てしまった自分を責めたりすると、気分の落ち込みが悪化していきます。
単純活性化と行動活性化
行動活性化療法には2つの方法があります
- 単純活性化(メリットの得られる行動を増やす)
- 行動活性化(不快な事象から逃れるために行っている回避行動を、長期的にメリットの得られる行動に置き換える)
認知行動療法を行うカウンセラーの間では後者の行動活性化が人気のようです。しかし、うつ病の方には「気分が悪いから行動できない」という根強い考えがあり、後者の理屈を説明しても行動に移せない方もおられます。一方で前者の「気分良く過ごせる活動を増やしていく」という説明は多くの方に受け入れられます。
TRACE高宮のカウンセリングでは、
- 気分良く過ごせる活動を増やす
- 気分の悪くなる活動を減らす
- 回避行動を置き換える
の3つで進めていきます
行動活性化療法は厳密には、「気分に左右されずに目標へ向かう行動をとれるようになる」ことを目指すのですが、最終的にそうなれたらいいと思いますので、上のような方法から始めることが多いです。
今回は、「行動活性化療法」というほど厳密な理論と手続きに乗ったものではない方法を「行動活性化法」と呼び書いていきます
TRACE高宮の行動活性化法のすすめ方
1.活動記録をつける
活動記録は、縦軸が時間、横軸が曜日になっており、1時間ごとの活動とその時の気分を記入できるようになっています
活動記録表
厚生労働省の認知行動療法マニュアルの活動記録表では、「達成感と楽しさ」を0-100点でつけるようになっています
TRACE高宮では、憂うつを0-100点でつけることもありますし、気分を-100(最も気分が悪い)から+100(とても気分がよい)を用いることもあります。この数字は相対的なものなので、0-10でも0-100でも付けやすければいいです。目標に合わせて使い分けるといいです
2.増やす活動、減らす活動を決める
活動記録は次回のカウンセリングまでの間毎日書いてもらい、次のカウンセリングではそれを見て話し合いをします。書いてもらった記録を見て、「気分のよくなる活動」「悪くなる活動」「回避行動」を見つけていきます
気分のよくなる活動を増やすのか、悪くなる活動を減らすのか、回避行動を置き換えるのかはケースバイケースで、カウンセラーと話し合って決めます。わたしの場合はまず気分のよくなる活動を増やすことが多いです。
気分の良くなる活動を見つける
気分の良くなる活動は人それぞれです。外に出ることであったり、人と関わることの人もいれば、1人で過ごすことの人もおられます。いつも人といるのであれば、一人でいる時間は貴重になりますし、いつも一人でいるのであれば、人と関わる時間は貴重になります。出来事は生活の文脈によって変わります
気分の良い活動がない場合は、昔好きだったことなど聞き、増やすと気分が良くなる活動を計画します。単純に楽しいものもいいですが、達成感のあるもの、自分の目指す生き方や、将来的な目標に近づける活動だと発展性がありいいです
回避行動を見つける
回避行動は、「家族と接するのが嫌で部屋にこもっている」「近所の人に会うのが嫌で家から出ない」「早起きすると1日が長いので遅くまで寝ている」など様々です
この回避行動の特定が難しいところで、カウンセラーがついて進めるメリットです
回避行動は、場所や対象などの外的な事象に対しても起きますし、思考やイメージなど心理的な事象に対しても起きます。
例えば、「今日は子どもの参観日だけど気分がすぐれない」という時に、「家で休む」ことを選んで結果的に気分が改善しない方もおられますし、「無理して行ってみる」ことで結果的に気分が悪くなる方もおられます
そして前者の場合、「元気なお母さんたちを見て自分と比較してしまう」などの不快な心理的事象からの回避行動として家で休んでいることがありますし、後者の場合、「参加しないと親としてだめだと思う」などの不快な心理的事象からの回避行動として無理をして参加していることもあります
同じような状況でも、どう過ごしたら気分が良くなるかは人によって違うので、その仕組みの理解が必要です
これまで休んでいたなら行ってみることもいいですし、休んで家での過ごし方を変えることもできます。無理をして参加しているなら休むのもいいですし、参加はするけど途中で休憩に出るなどでもいいと思います。目標によって、どんな活動を増やしていくかは変わります
また、「疲れると悪くなると思い動かないようにしている」「自分で良いと思い込んでいる過ごし方がある」「自分は病気で休んでいるので楽しんではいけない」、などのルールに縛られて活動している方もおられます。
活動を減らす
活動が減っている人には活動を増やしていくという方向性がありますが、反対に活動し過ぎて疲弊してしまう人に対しても活動記録は役に立ちます。活動し過ぎる人には、休息をとり、ペースを落として生活をするように計画を立てます。どの時間にどのくらいの活動を行うかを決め、その通りに過ごしてみて、それによって出来ることが長期的に増えたり、気分良く過ごせる時間が増えることを体験できると良いです
行動活性化法から他の方法へ
行動活性化法で活動が広がるとともにストレスが増えてくる方もおられます。そしてそれをとりあげることでさらにカウンセリングが展開していきます。ネガティブな自動思考が報告されて認知再構成法に移って行かれる方もおられます
以上のような手続きを繰り返しながら、「過ごし方を変えることで気分が変わる」ことを実感していきます。
TRACE高宮では行動活性化法も行っています。関心をもたれた方はカウンセリングのお申込みをどうぞ