うつ病や気分の落ち込み、不快な感情への認知再構成法のすすめ方

 TRACE高宮は、 「イライラする、すぐ不安になる、孤独を感じる、いつも寂しい、悲しい、憂うつ」など不快な気分や感情でお困りの方、「気持ちが落ち込む/気分が晴れない/自分が悪いと思う/疲れやすい/楽しめない/物事が億劫に感じる」などストレスや抑うつ症状にお困りの方に、カウンセリングと認知行動療法を提供しています

 カウンセラーは病院勤務歴があり、抑うつと不安に悩む方へのカウンセリングを一番多く経験しています。そして、どのくらい通えばどのくらい良くなることが期待できるのか、カウンセリングの目安も示しています

カウンセリングの効果と目安

 抑うつ症状でお困りの方には認知行動療法の「行動活性化法」と「認知再構成法」を用ることが多く、これらは厚生労働省のマニュアルでも用いられています

行動活性化法についてはこちらに書いています
うつ病への行動活性化法のすすめ方

 今日はTRACE高宮での認知再構成法のすすめ方についてかいてみます 

認知再構成法は

 認知再構成法の適用範囲は広く、抑うつ、悲しみ、孤独、不安、怒り、強迫などのさまざまな気分や感情、症状に用いることができます

 認知再構成法はカウンセラーが付いて行われるとガラッと気分が変化することがありますが、セルフケアに使えるようになるにはいくらかの時間がいるように思います

 場面、感情、思考の関連を自分で把握し、自動思考に反論したり、他の考え方が出来るようになるには、カウンセリングでの助言と日常生活での観察を繰り返すことが必要なのです

 また希望されても認知療法が合う人合わない人おられます。それは同じ内容の悩み事であってもです。

コラム

 認知再構成法にはコラムを使います。コラムは様々開発されています

  • 3コラム 状況、気分、自動思考
  • 5コラム 状況、気分、自動思考、適応思考、気分の再評価
  • 7コラム 状況、気分、自動思考、根拠探し、反証、適応思考、気分の再評価

がスタンダードです

 TRACE高宮では、「状況、気分(気分の再評価)、自動思考、反論、適応思考」の5コラムを用いています

 誰に適用する時でも3コラムまでは必ず書くのですが、5コラム、7コラムに進むと最後まで書かないことも多いです。
 3コラムでとらえた情報によっては、他のより適切な方法に切り替えることもあります。ここにカウンセラーがついて進めるメリットがあります

コラムのすすめ方

 認知療法の問題の捉え方は、「何があった時に、どんなことを考えて、どんな気分になったのか」ですので、これを問題の場面でリアルタイムに把握します

 最初は3コラムを使ってカウンセリングの時間に一緒に書いてみます。カウンセラーが書き始めて途中から付け加えてもらうこともあれば、最初から自分で書いてみるように促すこともあります

 自分に起きていることが把握できておらず、または認知療法の問題の捉え方に馴染んでいない方ではすぐには書けない時もあります。その場合は次回のカウンセリングまでの観察課題にされます

 書いてこられたら次は書かれているものを見て検討します

状況の書き方

 状況はシンプルに、「いつ、どこで、なにをしている(何があった)」で良いです
 一生懸命、状況を言葉で詳しく説明して書かれる方が多いですが、撮った写真に名前をつけるように、簡潔な説明でいいです

 うつ病の方では状況と思考がわけられてない方が多いです
 認知療法では、「気分を引き起こしているものは状況でなく思考」と考えますので、状況と思考をわけるということが非常に重要になります

 またパニック症などでは状況に身体感覚を書くこともあるようです

気分、感情、身体感覚の書き方

 ある場面で感じている気分は1つでなく、あげられるだけ挙げるのがコツです
 気分、感情、身体感覚も書いてもらいます。思考と感情はきれいに分かれるものでもないですし、感情にラベルを付けるのは難しい人もおられます。その場合身体感覚で報告してもらうことが役立ちます

 憂うつ、落ち込み、不安、ソワソワ、ドキドキ、イライラなど挙げて0-100で点数にします

 悩みというのは、状況でも思考でもなく感情なので、「どんな感情に困っているのか」あげられるだけ挙げてもらうことが大事です
 イライラに困っていると思っていたのが実は無力感に困っていたことに気づいたりと、ここで初めて自分の困っている感情が明確になる方もおられます

 認知再構成法は気分を改善させる方法ですので、例えば不安や恐怖に困っていることが判明した場合など他の適切な方法に切り替えることもあります。しかし不安や恐怖だと認知再構成法を用いないというわけでもないです

自動思考の書き方

 ここが最も重要で、この切り取り方がその先の成果をわける部分であると思います

 特に重要なのが、疑問形でなく「言い切り型」で取り出すことです
「~だろうか」「~じゃないか」でなく、「~だ」と言い切って取り出します

 悩み事のある人は、自信なく、頭の中で考え続ける方が多いので、思考は疑問形になりやすいです。しかし疑問型の言葉というのは「あーかもしれないしこーかもしれない」「あーでもないこーでもない」と、どちらにも確信をもたない形になりやすいです。そうするとその後に行う自動思考を検討することのインパクトが小さくなり、結果的に改善を感じにくくなります

 コラムはカウンセリングとして使っているので、自動思考は正しく取り出すのでなく、治療的な形で取り出すことが大事です

 うつ病や抑うつ症状のある方ですと、「べき」「ねばならない」「してはいけない」「しなくてはいけない」「できない」など、自分を縛る信念やルールが見つかることが多いです

意味を問う

 自動思考が取り出せたら次は言葉の意味を明確にします
「それは何を意味するか」「そうだとしたらどうなると思っているのか」「何が起きると思ってるのか」などを明確にして、最も感情を喚起する言葉を見つけていきます

 自動思考は、不快な感情が喚起されないようにマスクした形で報告されています。マスクされたままでは変化を感じにくいので、感情が十分に喚起される形で自動思考を取り出すことが大事です
 わたしは詳しくないのですが、この作業はスキーマの同定に近いのかもしれません

点数にする

 自動思考を点数化するかどうかは人によるようですが、わたしの場合は、思考が変化することで気分が変化することを体験してもらうため、0-100で数量化します

 数量化する時は、「どれだけ強く思うかを点数にしてください(確信度)」「この言葉がどれだけ正しいと思うかを点数にしてください(妥当性)」など、微妙に使い分けます。「どれだけ正しいと思うか」という問い自体が介入になることも多いです

 3コラムを書いた時のクライエントさんは、「1日中気分に悩まされていると思っていたのが波があることがわかった」「悩ましい感情だけが気になっていたが他の感情もあることに気づいた」など色々気づきがあるみたいです

 「状況、感情、思考は循環的に作用している」というのが認知行動療法の考え方なので、順番通りに書かないといけないわけではなく、書きやすい所から書いたらいいです

3コラム以降の書き方

 わたしは、「状況、気分(気分の再評価)、自動思考、反論、適応思考」の5コラムを使っていますが、厚生労働省のマニュアルで使われているコラムでは、「根拠探し」「反証」が入っています

 根拠探しは自動思考が正しいことを示す客観的な事実です。カウンセリング中ではおおよそ尋ねますが、そこまで客観的な根拠が出てくることは少なく、反対に真っ当な根拠のある場合は認知再構成が適用でない、というパラドックスになりやすいように思います。また、根拠が主観的な事実である場合はトートロジーになりやすいです

例えば、

自動思考 嫌われている
根拠 あいさつしたのに無視されたから (無視されたは思考)
根拠 あいさつしたのに返事がなかったから(「あいさつしたのに返事がなかった」と状況に書けばいい)

というように、根拠に書くことがあまり出てこないためわたしは使っていません

 しかし、根拠を尋ねること自体が介入になることも多いです
 同様に反証(自動思考と違うことを示す客観的な事実)も根拠が出ていない場合使いにくいので使っていません

 一方で反論(自動思考と違うことを示す主観的な事実)は非常に使いやすいです。反証が弁護士からの弁護だとしたら、反論は友人からの援護のようなものだと思います
 うつ病の方は孤独を感じていたり、主観的な事実を自分で作り出して気分が落ちこむ方もおられるので、自動思考に主観的に言い返せるようになることで良くなる方は多いように思います

 認知療法を作ったベックはアメリカの人ですが、アメリカ人は主張性が強く、また裁判の国なのもあって根拠さがしや反証が有効であるのかもしれません
 主張することの少ない日本人の気分の落ち込みには反論が非常にあっているように思います

 自動思考を検討するポイントは、「どんな理由からそう言えるのか」「そうだとしたら何を意味するのか」の二つに集約されるように思います

適応思考の算出

 適応思考の算出では、これまで書いたことを踏まえて、新たにその状況にあう思考を書くのですが、その教示もターゲットとなる感情やクライエントさんの個性によって微妙に使い分けます。
 「適応的な考え」「妥当な考え」「しなやかな考え」などです。

 適応思考はあまりに新しいものになりすぎないのがコツです。自動思考の確信がいくらか下がるような適応思考が書けると気分が程よく改善します

 コラムを使っても適応思考の算出までしないことは多々あります。コラムをきれいに書くのでなく、自動思考にとらわれなくなり、気分の改善を体験出来たらそれでいいです
 クライエントさん自身が、主観的に、しっくりくる思考を算出出来たらいいので、カウンセラーがリードしすぎて、カウンセラーにしっくりくる適応思考を作ってしまわないようしないといけません

 つまり認知行動療法は、上手なカウンセラーにかかるのがコツです

気分の再評価

 反論をしたり、適応思考を算出したり、自動思考を違う見方で検討してみたところで気分を再度評価してみます。0になっている必要はなく、「思考が変わることで気分が変わる」ということを体験出来ていたらいいです。身に付けたスキルを日常生活でいかしていくことが大事です

 
 認知行動療法は方法が明確で、1人で使える本やツールも多数出ているので、少しかじってみる人は多いですが、結局うまく使えていない人も多いです
 コラムの書き方や手続きが間違っていることもありますが、「介入として使う」ということを意識し、機序を理解してから使うことが重要です

 コラムは目的があって使うのであって、書き終えればいいというものではないです。この辺りにもカウンセラーから助言を受けながら進めるメリットはあるように思います

 
 TRACE高宮は不快な気分や感情でお悩みの方に、コラムを使った認知再構成法を行っています。取り組んでみたいと思われた方はご予約をどうぞ


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