パニック症へのカウンセリング・認知行動療法のすすめ方
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パニック症とは
パニック症とは、強い不安・恐怖、動機、息苦しさ、眩暈などの身体感覚に突然、繰り返し襲われる精神疾患です。パニック症の症状は多彩で以下のようなものがあります
動機、発汗、振え、息切れ、息苦しさ、窒息感、胸痛または胸部の不快感、嘔気または腹部の不快感、めまい、ふらつく感じ、気が遠くなる感じ、寒気または熱感、現実感消失、離人感、抑制力を失う、“どうかなってしまう”ことに対する恐怖、死ぬことに対する恐怖
パニック症は場面を問わないものですが、繰り返すにつれて特定の場面を恐れるようになり、その場所に行くことを避けるようになります。例えば電車やバス、車の中などすぐに逃げられない場所は典型的なものです。そしてこの予期不安と回避行動がパニック症を維持させる要因でもあります。
パニック症に悩む方には抗不安薬を常に持ち歩き、飲むとすぐに落ち着くと言われる方もおられますが、実際は飲んだ瞬間から効いてくるようなものではありません。不安も安心も主観的なものが大きく、パニック症が改善出来る疾患ということがわかると思います
パニック症の治療
パニック症の治療と言えばまずは医療機関です。精神科/心療内科へ行くと抗うつ薬・抗不安薬を中心とした薬物治療が行われます。しかし薬物治療の効果はそこまで優れたものではなく、3割から6割の人は十分に改善することがないことも明らかになっています。服薬でパニック発作に襲われることはなくなったものの、上にあげた予期不安と回避行動が続いており、パニック発作が起きることが怖いままになっている方もおられます。
薬でなくカウンセリングで治療したいと希望される方はたくさんおられます。海外を見ると、カウンセリング・認知行動療法の普及がすすんでいるイギリスでは、パニック症で医療機関へ治療に行くと、より効果の示されている認知行動療法が第一選択に選ばれるようになっているようです。
パニック症への認知行動療法の効果
認知行動療法の効果は日本でも確認されています。最も新しい研究では、適切な薬物療法を行っても十分な改善を認めないパニック症の患者さんに対して、週1回50分、全16回の認知行動療法をオンラインで行ったところ、80%の患者さんが改善し、その内67%の患者さんが寛解しています。
※改善 PDSSポイント半減
※寛解 PDSSカットオフポイント以下
パニック症への認知行動療法は、マニュアルでは以下のように進めることになっています
パニック症の認知行動療法マニュアル
- パニック症の心理教育(リラクゼーション法を含む)
- 認知行動モデルの作成
- 安全行動と注意の検討
- 破局的な身体感覚イメージの再構成
- 注意トレーニング
- 行動実験
- 身体感覚イメージと結びつく記憶の書き直し
- 「出来事の前後で繰り返しやること」の検討
- 最悪な事態に対する他社の解釈の検討(世論調査)
- 残っている信念・想定の検討(スキーマワーク)
- 再発予防
認知行動療法マニュアルには、パニック症に対して最も効果量が高いと言われている内部感覚エクスポージャー(症状誘発エクササイズ)が含まれていません。それが含まれた不安とうつの統一プロトコルモジュールは以下のようになっています
不安とうつの統一プロトコルモジュール
- 目標を定め、やる気を育む―動機づけ面接
- 感情を理解する―感情の心理教育
- ありのままの現在に気付く―感情へのマインドフルな気づき
- やわらかく考える―認知の柔軟性
- 代わりの行動をとる―感情行動の変容
- 身体感覚になれる―内部感覚エクスポージャー
- 感情エクスポージャー:UPスキルの総実践
- 出来たことを認めて、この先に生かしていく―再発予防
認知行動療法は効果があり、マニュアルも用意されてるので、パニック症になったら病院へ行き認知行動療法を受けたらいいんだ、と思われるかもしれませんが、実際は一部の大病院を除いて受けられるところはありません。理由は実施できる人がいないことと、保険診療上の問題(時間がかかる割に保険点数が低すぎる)で行われていないようです。
わたしは認知行動療法の資格を持っており、パニック症の認知行動療法研修は受けたことがなく、不安とうつの統一プロトコル研修は受けたことがあります。現在はそれぞれのマニュアルの有効な部分を取り入れてパニック症の方に認知行動療法を実施しています。
ここからはTRACE高宮に来たらどのようにカウンセリング・認知行動療法をすすめていくか書いていきます
TRACE高宮のパニック症へのカウンセリング・認知行動療法
1.パニック症のメカニズムを理解する
精神疾患には自分では気づきにくいものもあるのですが、パニック症は症状が特異なため、ほとんどの方が自覚されて相談に来られます。
困りごとと症状を見て、PHQ9、GAD7、MOIなどの尺度で症状の量的な評価を行っておくと継続的に改善が確認出来て良いです。TRACE高宮の場合、回避行動の程度・生活範囲の拡大を捉えられるMOI(Mobility Inventory for Agoraphobia)を使っています。他には、PDSS、PASなどもパニック症の評価尺度として代表的なものです。
困りごとの範囲と症状の程度を見たら、パニック発作のメカニズムを見ていきます。パニック発作がどのように起き、どのように治まるのかを知っておくことは非常に重要です。これが理解出来るとパニック発作が起きなくなる方もおられます。認知行動療法には、個々の疾患に対して認知行動モデルが存在するため、それを用いて治療をすすめることが出来ます。マニュアルのシートを用いて5つの要素から理解していきます。

- 状況・場面
- 自動思考
- 破局的自己イメージ
- 不安症状・身体感覚
- 安全行動
カウンセラーとセッションの中でシートに書き込んだり、持ち帰って自分がパニックに襲われる様々な場面について書いてみることをホームワークに出すこともあります。書いて理解していくと、突然全体から襲われていたものに流れがあることに気付き落ち着いてきます。
パニック症の方の多くは、「強い不安・恐怖に突然襲われる」、と認識していますが、それは少し違います。実際は「突然、もしくは特定の状況や場所に行くと、パニックに似た身体感覚が起き、それに対して強い不安・恐怖を感じ、自分を焦らせることでパニック発作につながる」という流れが合っているようです。
状況・場所→パニック発作(身体感覚・不安・恐怖) ✖
状況・場所、身体感覚→不安・恐怖・破局的思考→パニック発作 〇
ある状況や場所に行くとパニック発作に襲われる、と考えると自分ではコントロール出来ないように感じると思いますが、状況や場所・身体感覚を恐れるとパニック発作につながる、言い換えれば、恐れなければパニック発作に進まない、と理解されるとコントロールできる部分が出てきます。
不安・恐怖は「死んでしまう」「倒れてしまう」「気が狂ってしまう」などの破局的思考・破局的自己イメージが頭を巡ることによって高まるようです。また、恐怖を感じてその状況を離れると、離れないと逃れられない怖いものとして脳に記憶されるようです。カウンセリング・認知行動療法ではこの部分を変化させていきます。
恐怖の対象は大きく3つあるようです
- 身体感覚
- 人の反応
- 状況・場面
順番としては、身体感覚への恐怖が改善し、人の反応への良いイメージが出来ると、状況・場面の恐怖の改善に進めるようです。
2.身体感覚への恐怖の改善
身体感覚への恐怖に対しては内部感覚エクスポージャー法(症状誘発エクササイズ)が非常に有効とされています。パニック発作の予兆に感じる動悸、息苦しさ、めまいなどの身体感覚を意図的に経験し、それを経験しても恐れなければパニック発作に進まなかった、倒れたり気が狂ったり死んだりしなかった、恐れていたことが起きなかったという経験を上書きし、パニック発作との関係を解除していきます。この時恐る恐る取り組むよりも、恐れず、堂々と、立ち向かうような態度で取り組むとパニック発作が起きにくいようです。身体感覚の強さにもレベルがあると思いますが、これまではレベル1で恐怖を感じ回避行動をとっていたものが、レベル2、3、4を感じてもそのままにしていられるようになっていき、身体感覚へ向ける注意が減っていきます。症状誘発エクササイズの例を書いてみます
症状誘発エクササイズ
1.動悸・心臓の鼓動、ドキドキする感覚
・坂道を走る、階段を走って登る
2.息苦しい、息が吸えない感覚
・息止め、細いストロー呼吸、布で口をふさいで呼吸する
3.めまい、頭がぼーっとする感覚
・椅子に座ってグルグル回る、でんぐり返しを何回もする、走った後座らず立ち続ける、1点を見つめる
エクササイズは1度でなく、連続して何度も経験して、不安・恐怖の変化を体験するのが良いです。最初が一番怖く、繰り返し経験すると以下のように不安が上がりにくくなっていきます

怖くてなかなか取り組めない方は、カウンセラーと一緒に計画を立てて取り組まれると良いと思います。
回避行動・安全行動
恐怖を経験するとさまざまな回避行動・安全行動(不安や恐怖を避ける行動、弱める行動)をとってしまいますが、これは出来るだけ抑えたほうが良いとされています。回避行動・安全行動はお守りのようなもので、これをすると安全、ということは、これが出来ないと不安という体験の裏返しです。それが出来ないとき、それをしても効果が出ないときにパニックに陥りやすくなります。典型的には以下のようなものがあります
典型的な回避行動・安全行動リスト
- 他のことを考える、気をそらす
- 寄り掛かる、座る、安静にする
- ゆっくり動く、逆に早く動く、身体を動かす
- 逃げ道を探す
- 身体に注意を向ける
- しゃべりだす、逆にしゃべるのを辞める
- 薬を飲む
- 助けを求める
身体に注意を向けることも安全行動とされています。身体感覚や症状に注意を向けることは、パニック発作の予兆を早く見つけてそこから逃げることに役立ちます。それを続けると身体に起こる些細な感覚の変化に恐怖を感じるようになっていきます。身体へ向ける注意を阻止するには、外部の感覚や身体の他の感覚に意識を向ける方法が効果的です。これは認知行動療法マニュアルの注意トレーニングという方法と同じものです。
注意トレーニング
- 見えるものをひとつずつ言葉にする
- 聞こえる音をひとつずつ言葉にする
- 匂いを言葉にする
- 自分の脚や腕など身体を触りそこに意識を向ける
- 壁や椅子を触りそこに意識を向ける
安全行動は自分で気づくのは難しいものです。チェックリストをつけてみることや、カウンセラーに指摘してもらう方が良いと思います。また気づけてもきれいに辞めることは難しいものでもあります。しかしこれは、泳げるようになるためにはいずれ浮き輪を外して練習をする必要があるようなもので、出来るだけ抑えることが出来ると長期的には不安になることが減っていくようです。「恐れなければパニック発作になることはない」「不安は下げなくても時間が経てば下がっていく」と思って取り組まれると良いです。
3.人の反応に対する恐怖の改善
「パニック発作を起こすと周りの人に変に思われる」「恥をかく」「迷惑をかけてしまう」「周りの人は助けてくれない」、このような悪いイメージを持つとパニック発作が起きることがさらに怖くなり、絶対にパニック発作を起こしてはいけないと自分にプレッシャーを与え、実際のパニック発作につながりやすくなるようです
これに対しては、認知再構成法(認知的再評価)や、世論調査、ポジティブイメージトレーニングが有効のようです。
認知再構成法(認知的再評価)
認知再構成法では、頭の中を巡る破局的な自己イメージ・破局的な思考の妥当性を検討します。例えば「このまま動悸がひどくなって倒れても誰も助けてくれない」と思ったとしたら、「そう思う理由は何か?これまでにそんな経験をしたことがあるか?そうなったとしたらその後どうなる?避けたい最悪なことは何か?他人がそうなっているのを見たら自分はどう思うか?」などの質問にコラムを使って考え、悪いイメージを修正していきます。
世論調査
身近な人、信頼のおける人に、パニック発作を起こした人を見たらどう思うかを聞いてみる世論調査も有効です。パニック発作の場面に対して自分が持っているネガティブな予測やネガティブな意味づけを、他の人だったらどう考えるのか調査して、修正していく方法です。例えば、「具合が悪くなりうずくまった人を見たらどう思うか?どうするか?迷惑に思うか?恥ずかしいと思うか?」などです。一人に聞いても信じられない場合は、複数人に聞いてみる、割合を出してみるなども有効です
ポジティブイメージトレーニング
認知再構成法を行った時、そのように考える理由がなく、妥当性の検討が進まない場合があります。その場合はポジティブイメージを作る練習をしてもらいます。例えば、会社でパニック発作を起こしうずくまると周りの人が迷惑そうにするネガティブイメージがあるとしたら、それを止め、周りの人が気づき、優しく、心配してくれ、気にかけてくれるポジティブイメージを作ります。悪いイメージで自分を追い詰めることを辞めるとパニック発作につながることは減るようです。セッションの間に色々な場所へ行き、そこにいる周りの人を見ながらイメージを作る練習は、身体への注意を逸らし安全行動の阻止にもなります。これはカウンセリングに来なくても自分でできるので、やってみると良いと思います
4.状況・場面への恐怖の改善
身体感覚と周りの人の反応への恐怖に取り組んだら、これまでのカウンセリングをフル活用して状況・場面への恐怖に取り組んでいきます。これはその状況・場面と結びついた不安・恐怖を解除していくエクスポージャー法というものです。
エクスポージャー法
現在支障となっている苦手な状況・場面を、不安・恐怖の度合いで順序付けをしてリストを作ります。これを不安階層表と呼びます。電車やバスなど乗り物に乗ることが怖いのであれば、まずは1駅でも、徐々に距離を伸ばして遠くの行きたい場所へいく、人ごみが苦手であれば、まずは行きたいお店で人の少ない場所を、徐々に人の多い場所へ行って過ごしてみる、などです。その場所へ行くだけでなく、そこで何をするか、行為を含めることも有効です。
リストの作成は、①チャレンジになるもの、②自分の達成したい目標に近づくもの、③現在の生活に関連するもの、が入るようにすると動機づけが高まります。例えば、「飛行機でアメリカへ行く」、などは成功すれば効果的な壮大なチャレンジにはなりますが、現在の生活には支障がなく、容易に取り組むことも出来ませんので課題としては適切ではありません。一方で、「降りずに何駅電車に乗り続けられるか挑戦」、などのチャレンジになるものは、それ自体生活に必要はありませんが、取り組みやすく自信がつくというメリットがあるので良い課題です。
行動実験
リストに取り組む前に、「そこに行くとどうなると思うか?それをするとどうなると思うか?」具体的にイメージで予想をしておいてから結果と比べると、ネガティブな予想が修正されやすいようです。これは行動実験という方法です。
リストの場所へ行く直前、直後、5分後、…、時間の経過にそって不安の点数をつけるシートも役に立ちます。恐れなければ、不安はピークを越えるまで長くて15分と言われています。強い不安は落差を感じられるため変化を感じやすく、弱い不安は変化を感じにくいため持続して感じられます。程ほどの難易度のものにチェレンジする方がいいようです。
実際の場面へ行き不安を感じたら、身体感覚に対しては症状誘発エクササイズを思い出し、周りの人の反応が気になったらポジティブイメージを作りましょう。「不安は時間が経てば下がる」「ピークを過ぎたら何もしなくても下がる」不安の推移の図を思い出しましょう。身体の感覚に意識を向けすぎることは、その場所から逃げる準備としての安全行動になっています。聞こえる音を探して名前を付けたり、見えるものを一つずつ名前を言ってみたり、近くの壁や椅子・脚や腕など自分の身体を触ってみたり、注意を分散させましょう。安全行動は出来るだけ抑えるようにチャレンジすることが大事ですが、絶対にしてはいけないというものではありません。「最後に出来るようになればいい」「途中で止まってまた取り組んだらいい」と、気軽な気持ちで取り組んだ方がいい人もいれば、「パニックには絶対に負けない」と強い気持ちで取り組んだ方がいい人もおられるようです。
実際にやってみると不安が起きない時もあります。これは半分成功半分失敗です。改善になるのは、「不安や恐怖やパニックの予兆のような身体感覚が生じても、それを恐れなければパニック発作にはつながらない」という経験をすることです。不安が起きない時は、その場所で症状誘発エクササイズをやってみるのも効果的です。例えば、「電車やバスに乗って息止めをしてみる」「車を運転して信号で止まっている間ストロー呼吸をしてみる」、などです。徐々に難易度をあげて、自分からすすんで入っていく姿勢で、怖がらずに、自信をつけていくと良いみたいです。パニック発作が起きなくなり、心配が減り、日常生活で自由に行動出来るようになったら終結です
パニック症の直接的な治し方としてカウンセリング・認知行動療法について書きましたが、疲労やストレス、寝不足、二日酔いなどもパニック発作をおこしやすくするようです。併存する精神疾患、併存する悩みごとを予防・改善することでも間接的にパニック症の改善につながることと思います。
パニック症の認知行動療法は、人間の感情や行動の原理に沿った現実的な方法です。専門家が付いて取り組むメリットは、適度な課題を立て計画的に取り組むところだと思います。これまで治療やカウンセリングを受けてきた方もまだ受けていない方も、良くならないと諦めずに、医療機関やカウンセリングルームに相談に行かれてみると良いと思います。
パニック症で悩んでおられる方、カウンセリング・認知行動療法に関心を持たれましたら、ご予約/お申込をどうぞ。無料で出来る「メール相談」で先に相談されてみてもいいです。1営業日以内にお返事しています。
文献
- 薬物療法で改善しないパニック症にオンライン認知行動療法が有効 ― ランダム化比較試験で実証 ― 千葉大学
- 社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル(治療者用) 日本不安症学会
