「クライエントの言葉をひきだす 認知療法の問う力」を読んだ感想

コロナでカウンセリングルームがだいぶん暇なので、空いた時間に専門書を読んで感想を書いています

これを読み終えました


クライエントの言葉をひきだす認知療法の「問う力」―ソクラテス的手法を使いこなす

割と最近買った本

認知療法のセッションの逐語が載ってるということで買ってみた

海外では、カウンセリングの録音録画などの生のデータを見ながらトレーニングを受けるというのは標準的だけど、日本ではされてません

日本でされてるトレーニングは、カウンセリングが終わった後に、カウンセラーが一生懸命カウンセリングの50分を思い起こして、あー言ったこう言ったというのをまとめ、それを検討する、という方法で、検討するということには充分でも技術的な研鑽にはなりません

単純に、それでは臨床的な事実が再現されないので、検討しているものがそもそも誤っていたら、トレーニングは全く意味をなしません

スポーツの世界を考えたらわかりやすいけど、プロボクサーが、一生懸命自分の試合を思い返して、それを報告して指導を受ける、とかしても、技術研鑽にはなりません

さらに言うと、指導だけ受けても意味がなくて、自分の姿を見るということで上達します

指示を受けて言われるままに直してみるよりも、自分がバットを振る姿をビデオに撮ってみてみる方がよほど上達します

ここから本の話

「認知療法の問う力」は2部構成で、前半はソクラテス的手法、後半は「短期認知療法適合性尺度」の話だった

ソクラテス式手法って認知療法では当たり前に話をされるのだけど、実際の所、専門的に解説した書籍というものがないらしい

認知療法の本を読めば「自動思考を反証する質問」とかは勉強できるけれど、ソクラテス的手法に特化したものというのは確かに見たことがない

読んでみて、これだけ質問の内容や目的を分類したものはこれまでなかったので、自分が普段やっていることが何なのかを体系的に学ぶにはいいと思った

3章の「普遍的定義」とか、「こういうことやってる!」「これ普遍的定義っていうのかー」とか思って読んでいた

セッションの逐語に関しては、ちょっと誘導的過ぎるかな、と思った

認知行動療法は他の心理療法と比較するとカウンセラーが積極的にしゃべる方だとは思うのだけど、この本の逐語はなんというか、ゴール前までカウンセラーがもっていくとしても、せめてゴールに入れる最後の所はクライエントに蹴ってもらった方がいいと思うのだけど、そこをカウンセラーが蹴っちゃう感じだった

例えば80ページの「おとなしい同僚のように、Fさんが主張したり怒ったりしないから言われてしまうんじゃないでしょうか」とか、89ページの「Gさんの意識はややスピーチの表面的な部分に偏っていたのかもしれませんね」とかは普通に余計な一言だと思うし、あまりにセラピスト主導で進むので、90ページのクライエントは「そうですね」ばかり言ってる

適応思考の算出なんかはカウンセラーが作ってそれをクライエントに認めてもらうのでなくて、クライエントが自分の言葉で算出することが大事なのだと思う

「セラピストが期待する回答を得るためにクライエント誘導するような質問は望ましくありません」と書いてあるので、この本の本来の趣旨としてはそうなのだろうけど、「否定してもらうための質問」「正しい方を選んでもらうための質問」が多すぎて、わたしはだいぶん窮屈に感じた

わたしが学習した認知療法はちょっと違う

認知療法の世界は、ベックの認知療法と、アルバートエリスの論理療法の2つにわかれて、エリスはクライアントとの論理的ディスカッションの中で、論理的に不自然な所を指摘して信念の内容に修正をかけていく感じで、ベックはもっと穏やかに、クライエントの気づきを重視して、自動思考の妥当性を検討して確信が下がり、思考が柔軟になって気分がやわらげばいい、というくらいのものだったはずだ

大野裕先生のうつ病の認知療法のデモンストレーションとか見ると、もっと頻繁に受容的な言葉を入れて、休み休み進んでる

まあでも「問う力」というタイトルなのもあって極端にして目立たせてるのかもしれないし、会話の間とかが入ってくるとまた印象が違うかもしれない

もしこのくらい質問を繰り出すなら、カウンセリングの構造を作っておくといいかもしれない

つまり、ケースをフォーミュレートして、「自分で自問自答して一つの考え方から抜けだせるようになるために、今日のカウンセリングではわたしは質問を繰り返しますね」みたいなことを言ってカウンセリングを構造化する

あとは、1セッションしかないならこのくらい詰めたディスカッションになるかもしれない

先日わたしのつくった「認知再構成法のデモンストレーション」でも、カウンセラーが割と質問を繰り出してるけど、あれは動画として50分で変化を見せたかったからそうしてるのであって、もう少しセッション数があるならもっとゆとりをもって進める

後半の話

後半の認知療法適合性尺度は、短期間の認知療法が向いてる人かどうかをアセスメントするための尺度になってる

「防衛的操作」とか「治療同盟」とかの用語が使われてるので、だいぶん昔に精神分析の影響を受けて作られたものなのかな

この防衛的操作の話はいくらかおもしろかったかな

防衛的操作は「回避行動」「服従行動」「過剰補償」の3つに分類されて、セッションでカウンセラーの感じる内的感覚を利用してそれを評価するという話

例えば、クライエントが服従行動にあるときは、セッション中セラピストは話を進めやすいと感じ、終了時に「うまくいった」と高揚感を感じている。しかし次のセッションにクライアントが来なくなるという例だった

服従的になり悩むことをやり過ごすということが起きるということだ

とりあえず1回読んでの感想を書いてみたけれど、逐語もあるし、何度か繰り返し読むと、また思うことは違うかもしれないと思った


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