UP臨床応用編「第10章 不眠症障害に対する統一プロトコル」

不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編

 不眠という悩みは精神科/心療内科にかかっている人に多いものだと思う
 認知行動療法が効果を示している精神疾患でも、うつ病、不安症、強迫症、社交不安症、PTSD、そして不眠障害は代表的なものだと思う。

 しかし、わたしは医療にいたけれど、振り返っても不眠という悩みに対してカウンセリングをしたことがほとんどない
 なぜかを考えると、患者さんが医師から回ってくるときはすでに睡眠薬が処方されて眠れるようになっていることが多いからだと思う。
 不眠にカウンセリングが効く、ということを知らない医師のもとで働いていたら、不眠という悩みごとに対してカウンセリングをする機会はほぼないと思う。
 そういう所にかかっている人が薬以外の方法で治療を望んだとしても、薬以外の選択肢はないのと一緒だと思う

 ということで不眠のカウンセリングについて勉強しとかなければと思いこの章を読むことにしました

 大事な所を書き残していきます

不眠障害に対する統一プロトコル

 不眠障害は、夜になっても寝付けない「入眠困難」、朝まで眠り続けるのが難しい「睡眠維持困難」、意図したよりも早く目覚める「早朝覚醒」のうち、1つまたはそれ以上を含む睡眠の質や量の不満を特徴とします

 また、睡眠困難が生活機能の重要な領域(社会的、教育的、職業的、行動上の領域)での意味ある苦痛や障害に関連していなければなりません

 その睡眠困難は眠る機会が十分にある状況で、最低3か月にわたって週に3夜以上起こる必要があります

 DSM5以前は不眠症は「原発性」と「二次性」に区別していました。主訴が睡眠障害で、他に精神障害や内科的疾患がない患者は原発性不眠症と診断され、別の障害に関連する睡眠障害を有していたり、別の障害の症状とみなされた患者は二次性不眠症と診断されました

 DSM5では原発性不眠症は「不眠障害」に名称が変更されました。DSM5では原発性不眠症と二次性不眠症を区別しないという決定を反映したものです

 不安やうつ病を効果的に治療しても不眠症状の完全な寛解にはつながらないという研究結果が出ています

 不眠が認められる場合には不安やうつ病を治療するだけでは不十分で、併存症の治療に成功した後も睡眠の問題が続き、患者は将来再発しやすいことを示唆しています

感情障害としての不眠障害

 感情障害の患者は、強いネガティブ情動を体験し、自身の感情体験に対してネガティブな反応を示した後、感情体験の抑制や下方制御(回避的な対処)を行う傾向があります

 生活上のストレスが同じ程度であっても、よく眠れる人に比べて不眠症の患者では日常の些細なストレスの影響を大きく見積もり、ストレスが多いと考え、そのストレス要因をコンロールできないと報告します

 「ストレス反応性の高まり」と「回避的な対処スタイル」は、不眠障害の最も有力な予測因子の1つのようです

不眠症に対する診断を超えた治療の標的

 不眠症の原因に関する研究では、素因、誘因、維持因子に焦点を当てることが多いです

素因

 不眠障害の家族歴や不安を抱きやすいパーソナリティのような睡眠の問題を経験するリスクを高める恐れがある因子を言います

誘因

 症状の最初の発現と関係があり、ストレスの増加(病気や昇進)やライフスタイルの変化(赤ちゃんの誕生)などが考えられます。きっかけとなる出来事が解決されると多くの場合不眠症状は収まります

維持因子

 睡眠問題を悪化させたり維持したりする不適応的な対処を言います

 UPでは維持因子に焦点をあてます。第1に、素因と誘因は急性の不眠症には大きな意味をもちますが、慢性症状へと移行するうちに次第に関係しなくなります。第2に、維持因子は慢性不眠症の要因となる機序を反映しているので、適切な介入標的となります

睡眠についての非機能的な信念

 睡眠に対しての非機能的な信念は、必要な睡眠の量(8時間寝ないと調子がよくない)や、質(夜中に目が覚めると、朝元気を取り戻した気がしない)に関する非現実的な期待に基づいていることが多いです。そうした期待があるせいで、夜間の睡眠不足が翌日の生活機能に与える影響を心配します(「職場で仕事をこなせない」「イライラした気分になる」)

 睡眠や睡眠不足の結果に対するネガティブな信念(すぐに寝付かないと、明日の仕事が台無しになる)を抱いている結果、床について眠ろうとしている時に否定的な認知活動が増え、その認知活動が入眠を妨げます

 睡眠に関する非機能的信念は不眠症治療において標的とすべき重要な憎悪因子です

 不安を感じている不眠障害の患者は、前夜よく眠れなかったことが不安の直接的な原因だと結論づけがちです

 モジュール4では、睡眠に関連する思考をとりあげ、過度の予測への反論と脱破局視を行うことで、ネガティブな結果が生じる可能性がどの程度かをより客観的に予測したり、ネガティブな結果に対する能力を客観的に評価することを学びます(「今夜8時間眠れなくても、疲労感に対処する方法が明日にはみつかる」)

過覚醒

 不眠障害は過覚醒とも関連があります

 自律神経の覚醒については、入眠前の過度の心配と反芻が直接の原因だと提唱されています

 生活障害を恐れるあまり、睡眠関連の手掛かりに対して過剰な注意覚醒を示す傾向があります。眠りに落ちる兆し(心拍数の低下など)がないか身体をチェックしたり、翌日に睡眠不足の兆候(疲労感、集中力の欠如合致する体感)がないか確かめたりします

 このような過剰な注意覚醒には、自律神経の覚醒水準の上昇と睡眠に関する侵入思考(今日はひどい気分なので、今夜はよく眠るようにする必要がある)という望ましくない副作用があります

 過覚醒は感情状態や身体症状に対するネガティブな反応として起きます

 自分の感情体験を「悪い体験」や「受け入れられない体験」と断定した後、今後起きるかもしれないことを心配したり、過去にうまくいかなかったことを反芻します(「この前数時間しか眠らず売り込みをしたときは失敗した」)

 モジュール3では今現在の瞬間に留まりながら、自分の感情体験を非断定的に観察するスキルを患者が育む手助けをする目的で、感情へのマインドフルな気づきのスキルを紹介します

 就寝時に体験する過覚醒にこのスキルを適用し、覚醒症状を睡眠を脅かすものと誤解せずに、コントロールしようとせずに、そのまま認めることを学びます

 内部感覚曝露において、過覚醒症状をわざと喚起するようなエクササイズをすることで、身体症状が感情反応の誘発に果たす役割を深く理解し、症状への忍耐力を高めることが出来ます

安全行動

 眠れなさや熟睡感のない睡眠を防ぐために不眠障害の患者は様々な対処を考え出します

 安全行動と呼ばれるこうした対処法は、「睡眠薬を服用する」「ワインを飲む」「日中うたたねする」「予定をキャンセルする」「就寝前リラックスして緊張をほぐす時間を十分にとる」、など様々です

 こうした対処法は眠りを妨げかねず、睡眠に対する非機能的信念を手放せなくなり、逆効果であることが多いです

 眠ろうと努力することは不眠症の重症度と関連します

 安全行動はネガティブな感情体験を完全に回避したり、つらい感情体験の強度を軽減したりします

 モジュール5では感情駆動行動が感情体験にどう影響するかを学んだ後、不適応的な感情駆動行動を同定し、逆の代替行動をとり始めます

 「規則正しい起床時間を維持する」「眠れない時は起き上がる」「総就床時間を減らす」、と言ったCBT-Iの要素の多くを感情曝露として導入できます

 不眠症の患者にとっての感情曝露の目的は、睡眠に対してそれまで抱いていた信念(睡眠不足の破局的な結果)の修正を促進し、強い感情に向き合う練習を繰り返すことで苦痛への忍耐力を高めることにあります

 感情回避と感情駆動行動の低減により、眠ろうと努力することが徐々に少なくなり、結果的に自然に眠りにつけるようになることが期待されます

事例

 ジョナサン。2週間ほとんど眠れず著しい抑うつ感と自殺念慮を経験した。精神科に4日間入院し、退院した

UPを用いた治療

 治療者は「不眠症の認知行動療法」を利用することにしたが、毎晩「十分に」眠ることについての不安を理由に、不眠症に特化した治療要素にジョナサンが意欲的でないことが明らかになった

 例えば睡眠日記をつけたり、過度の就床時間を避けるのは気が進まないと話した。眠気を催すまで就寝を待ったり、20分たってまだ眠りに落ちていない場合に起き上がるのには気が進まないとのことだった

感情を理解する

 就寝時に体験する不安への「3要素モデル」の適用は、圧倒的でコントロール不能に見える感情体験を、より客観的な視点から見直し始めるのに役立ちました

感情へのマインドフルな気づき

 「湧き上がった感情を十分に体験する」「現在に留まる」「思考や気持ちや行動が生じた時にそれに気づく」、の3つを行うように指示されました。良い感情か悪い感情か判断したり、感情を押しのけようとせずに、感情が生まれたり消えたりするままにしておくように伝えました

 1日2回エクササイズを行い、用紙を用いて体験を記録しました

 現在の瞬間の文脈の中で不安をグラウンディングすることにも取り組みました(「一睡もせずに明日仕事でプレゼンを行うことを心配しているが、いまここでベットに横たわっている」)

 思考が今現在の瞬間から引き離されつつあると気づいた時に、思考を「過去」と「現在」にラベル付けをし、呼吸に集中して自分をグラウンディングことが役に立ちました

認知的柔軟性

 ベットに横になっている時に体験する身体感覚を「睡眠に対する脅威」と解釈しがちで、それが心配や不安といった苦痛につながっていました。早朝まで横たわった夜は、翌日にどの程度支障があるか、十分に機能しない事による損失(解雇される、妻に見捨てられる)に自動思考が集中しました

 ベットに横になっている間に生じるネガティブな自動思考への気づきを高め、それに代わる客観的な考えに気づけるようになりました

 「今夜は眠れない」という自動思考が浮かんだら。「今は目覚めているが、夜通し起きているかどうか、確かなことはわからない」と逆のことを考えるようにしました

感情駆動行動の逆をする 感情曝露

 感情駆動行動は、「不眠症の長期的影響に関する記事を調べる」「毎晩睡眠薬を飲む」「前夜によく眠れなかった場合にミーティングの予定を組みなおす」「力を温存するために自転車の替わりに車で通勤する」「ベットに入ってから睡眠不足について心配する」「妻と別の部屋で眠る」「夜に猫を地下室に閉じ込める」「早くにベットに入る」、などでした

 睡眠習慣の変更に関してジョナサンは依然としてかなりの不安を抱いていました

 治療者は「感情・状況回避の階層表」を作成するのを手助けしました。回避行動を止めていくことや運動に関する項目が含まれていました

 睡眠習慣を変える不安が強くなった時には、現在の瞬間に留まり、考えられる結果をもっと柔軟に予想しました

 最初の曝露としては、「妻が寝ている寝室に戻ること」にジョナサンは同意しました。睡眠日誌をつけることも承諾しました

 それまでは午後11時に寝床に入っていましたが、望ましい総就床時間を計算した後、感情曝露として「午前1時に寝床に入る」ことに同意しました


 この章、かなり中身が詰まってる。眠れないという悩み事の特徴が手に取るようにわかる。絶対読んだほうがいい!「眠れない時は起きる」という方法は画期的だ。ふとんの上で心配が生じるのだから、その状況で思考を変えようとせずに、状況自体を変えてしまう。そして起きるということは感情曝露になり、その後の睡眠に対してと、次の日のパフォーマンスに対しての行動実験になる。そして分単位に記録をつけることで改善を評価する。不眠という悩みごとが割と短期間で改善するのはこれだけの合わせ技が出来るからだと思う。「夜、猫に家の中を歩き回らせる」などの感情曝露がおもしろい!こういう一般人では気づけない不眠の仕組みを明らかにするところに専門家の役割があると思う。

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