「5章 大うつ病性障害に対する統一プロトコル」まとめと感想

不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編

「不安とうつの統一プロトコル(UP) 臨床応用編」を読んで書き残していきます

TRACE高宮は気分の落ち込みを専門に見ているのもあって、うつ病へのUPは一番気になっていたところだった。というかここを読むためにこの本を買った

 うつ病の方にカウンセリングをする時は、思考を柔軟にする認知再構成法か、正の強化による活動を増やす行動活性化法を使ってきたのだけど、これを読めば新しく、曝露という手段を増やすことが出来る

 でもよくよく振り返ると、うつ気分に対して曝露的なことを全くやってこなかったかというとそうでもない
 3コラムを書いて感情と自動思考を見つけるというのも曝露的だし、自己受容を促すのも、悲しい気分に浸るのも曝露的だ

 ただそれを理屈をもって使いこなせているかというそうでもなかったと思うので、改めて理屈を勉強するという感じだ

 曝露に関しては、不安や恐怖などの覚醒度の高い感情は消去の機序が適用できると思うのだけど、うつ気分のような覚醒の低い感情は消去できないのではと思っている


うつと不安の併存

 うつ病は不安症の併存割合が高いです。50%は不安症を合併しています。抑うつ障害と不安症は「同じ全般神経症症候群の多様な表現型である」と結論付ける研究者もおり、複数の研究がこれを支持しています

 UPを用いた治療は、感情の本質、神経症傾向、体験の回避に関する心理教育から始まります

悲しみの適応的な本質

 悲しみはコントロールできない挫折や喪失を体験していることを自分自身が知覚していると知らせてくれるものです
 悲しみが適応的でもありうることをクライエントはなかなか理解できないことがあります

 幸せは、気分(躁状態でもうつ状態でもない安定した状態)とは別の状態です

感情を理解する

 うつ病患者には悲しみや罪悪感のような特定の感情が目立つかもしれないが、あらゆる基本感情を見つける練習をするよう勧めます
 ポジティブ感情を感じた時には、体験そのものとポジティブ感情への反応への気づきを高めることが重要です

 感情体験の中核要素(思考、身体感覚、行動)と先行刺激と結果を見極めます

感情へのマインドフルな気づき

 うつ病のある患者は、自分の感情や体験へのマインドフルな気づき、特に非断定的な気づきが不足し、感情に注意を向ける際には反芻のような反復的なネガティブな思考プロセスになる傾向があります

 抑うつ症状が認められる患者は自分の感情体験に非常に断定的で、社会的、日常的な状況にたいしても断定的になり、恥や罪悪感、絶望という二次感情が生み出されます

 感情へのマインドフルな気づきの練習を取り入れるのは、二次感情の頻度を減らすうえでも、ネガティブ感情への忍耐力を高める練習を始める上でも有益です
 感情がその瞬間瞬間にどう移ろっていくかの気づきを高めることは、代替行動に取り組んでいく際に、感情が動く瞬間に適応的に反応していくうえで役立ちます

思考の落とし穴

  • ネガティブな出来事が起こる可能性の過度の予測
  • ネガティブな出来事が起こった結果の過大評価(自分の対処能力の過小評価)
  • 状況がネガティブな結果に終わることの過大評価
  • 活動における喜びや興味を一切体験できない可能性の過大評価
  • 回復に取り組んでいる時に落ち込んだり物事に興味が持てなくなったりする気持ちに対する自分の対処能力の過小評価
  • 結論への飛躍
  • 状況についてのネガティブな結論に至る

 このような思考には考え直しの質問が効果的です。加えて下向き矢印方を行いネガティブな認知がどうつながっているかを見つけることも推奨されます

下向き矢印法

 ネガティブな認知がどうつながっているかを見つける

感情行動の逆をする

 うつ病の患者さんは行動回避や社会的引きこもりのパターンを身に付けます
 抑うつ行動は正の強化によっても維持されます(両親から同情を得る、金銭的な支援を受けるなど)
 メリットデメリットを話し合い、これらの要因を自分で見つけ出すことも大事です

感情曝露

 曝露は通常不安や恐怖を特徴とする障害を対象とします

 神経症傾向を標的とする際には、強い感情やそれに関連する不適応的な感情調整(行動回避や認知回避)に反応して出てくる苦痛への忍耐力を高め、最終的にその苦痛の消去を促します
 うつ病治療のためにこの方法に修正を加える必要はありません
 どの感情も潜在的に関係しています(神経症傾向として)
 うつ病の症状やプロセスは、同じ根本的な病因または維持因子が形を変えて現れたものです。感情に焦点を当てた曝露介入がうつ病に適用できます

内部感覚曝露(IE)

 不安感受性はうつ病および抑うつ症状と有意に関係しており、不安症との併存によっては説明できません

 悲しみ、恥、罪悪感のような道徳感情には身体的な要素があります
 例えば悲しみには、身体の重さ、疲労感、のどが締め付けられる感じがあります

 IEを適用する場合には、内部感覚についての主観的な苦痛を弱め、内部感覚への忍耐力を高め、内部感覚が活性化している中での適応的な行動反応を増やす(疲労や眠気を体験しながら仕事に行く)ことを目的とします

悲しみの内部感覚エクササイズ

  • 胸や腕の上に本を何冊か乗せて横になることで体の重さを再現する
  • 足首に重りをつけて活動する
  • 運動した後で日常の活動をこなして疲労感に堪える
  • 続けて何度も唾をのみ込んで喉が締め付けられたり詰まったりした感じを体験する

介入順序

 治療開始時の目標設定と動機づけについての話し合いが特に重要です。抑うつの時には治療に対する動機づけを維持するのが困難となるからです。
 長期間抑うつを患っているために気分を改善する以外の目標がわからなくなっている場合もあります。
 治療初期に動機づけと抵抗に注意を向けるとCBTの効果は高まります


UPはエモーションフォーカスドセラピーと理論的、技法的な共通点が多いです
対人関係療法とは、感情の個人内及び対人的な機能の双方を重視する点で異なります


 曝露でうつ気分のような覚醒度の低い感情が消去できるのか、に関して、今の所の答えとしては、UPの曝露はうつ気分を対象としているのでなく、神経症傾向を対象としている、というところに留まった

 消去しているのは不安焦燥ではないのか、二次感情ではないのか、気分が落ちこむことに対する不安ではないのか、疑問はあるけれど、他の章を読んでたらわかるかもしれない

 曝露という手段をうつ病のカウンセリングで使えるようになれたらとは思うけれど、思考が変われば気分が変わる、という認知療法の機序の方が、クライエントに受け入れられやすいんだよなーとも思ってしまう

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