認知行動カウンセリングの実際を読む「17章 嫉妬」

よくわかる認知行動カウンセリングの実際: 面接の進め方とさまざまな感情への応用

ついについに最後の章です
感情ごとの認知モデルってのが結構おもしろかったので、図付つきで別に記事ページを作ろうと思っています

嫉妬

 カウンセリングが行き詰まり、クライエントが問題に取り組めない背景には嫉妬が隠れていることがあります

 嫉妬は怒りやうつに偽装しているので気づきにくいのです

 健全な嫉妬には「他者が持っているものを自分も手に入れたい」という願望が含まれています。CBCで話題にする嫉妬はこれではありません。

嫉妬に関するABCモデルのC

 嫉妬が健全で無害な時には、自分を高める努力や、切望したいものを得たいという気持ちをもたらします。嫉妬が不健全で不快な感情を引き起こすと、活動できなくなり、みじめで、不幸で、喜びを失ったと感じます。

 不健全で不快な感情を引き起こす嫉妬は、受動性を強め、生活の基本的な目標を阻害し、相手を蹴落としたいという悪意を引き出します

 不健全な嫉妬は自己向上のための努力ができなくなります

 嫉妬は痛みの感情になります。心理的な痛みは受動的な敵意反応になりやすいのですが、うつと誤解されることがあります

 うつの場合は自分が無意味で空虚でうつろな存在だと感じますが、嫉妬の場合は欲しいものが手に入らないという感覚が強く、落ち込みではなく、自分が不完全な状態だと感じています

 嫉妬の対象が自己感覚、将来像や地位、全般的な生活満足度の場合は嫉妬感情は容易に消失しません。変化のための努力や責任を全うする力を弱めてしまいます

 「他の人は簡単に手に入れているのに、どうして私はいつもこんなに苦労しないといけないのだろう」と嘆きます

 「わたしはかわいそう。周りの人が幸運なのは納得でない」という考えは問題を慢性化させます

 有害な嫉妬はライバルの喜びを台無しにしたり、減らしたいという欲求を伴います。主要な行動傾向は他者の幸運を打ち消すことです

 「ねたみ」の行動傾向は、他者の成功や幸運を言葉で貶めたり、自分が持っていないものを他者が持っているだけで中傷したり、自分の優位性を示すために相手に勝とうとしたりすることです

 嫉妬から生じる認知は、所有物、幸運、生活スタイル、地位などのように他者にあって自分にないものがテーマになります

 昇進した同僚に嫉妬している時、嫉妬が健全なものなら、自分の長所に目を向け、自分も昇進できるように取り組もうと思うでしょう。不健全な嫉妬であれば、同僚に勝てないと感じて、相手の昇進を祝福せずに、罵ります。相手の成果や将来を見下し、けなし、批判しようとする認知が生じます。他者の成果は運の良さによると結論付ける「理由の価値下げ」認知が生じることもあります。つまり運がよかっただけで相手が自分より優れていたわけではないと考えます。さらに卑劣な方法を使ったのだと考えるかもしれません。

 他者が持っているものを罵るか、手に入れ方を汚すという認知が生じるのです。いずれにしても自分自身の昇進の機会を増やすことにはなりません。

嫉妬に関するABCモデルのA

 嫉妬のAは自分が欲しているものを他者が持っていることに気づくことです。物、人間関係、幸運かもしれませんし、自分のようなつらい体験を全くしていないことかもしれません。

嫉妬Aの根本

  1. 自分に欠けているものを他者が持っていること(物、人間関係、能力、性格、地位)
  2. 欲するものが欠けているために、幸せを感じられない事、みじめだと感じられること

 「自分のようなつらい体験を他者がしていない」ということもAになります

 うつや怒りを持つクライエントは他者が苦労せずに出世することへの嫉妬によっていっそう身動きが取れなくなっているかもしれません。他の感情問題が嫉妬のAになることもあるのです

嫉妬に関するABCモデルのB

推論

 推論の最初の段階は、自分が欠けている物を誰かが持っているという結論です

 比較や競争という解釈が入ります

 例えば「彼はわたしよりいい人生を送っている」となります。他者の生活についてすべてを知っているわけではないので推論は実際にわかること以上のものです

 次に「熱望しているものを得ることが出来れば、自分自身の生活が良くなる」という推論の解釈が生じます。「あれさえあれば、わたしの生活は良くなる/快適になる/満たされたものになる」となります。ライバルが持っているものを自分が得られれば、自分の生活が改善するという予測です

評価

 嫉妬に関する不合理な評価は「格差についてのこだわり」です。「わたしは欲しいものなしでは生きられない」となるでしょう

 次に格差についての極端なネガティブ評価があります。これは低い不快耐性信念です。「熱望したのがない状態に耐えられない」となるでしょう。熱望するものが得られないことに耐えられないなら、絶対に満たされるべきだとこだわりは過剰になります

 最後の評価は、物がないことによる自己評価です。熱望するものを持っている他者が立派に見えて、自己評価が低くなります。

 他者の特性を手に入れなければならない、それがない生活はつらい、それがなければ自分は醜く、価値がないというこだわりが生じます。それがなければ自分は役に立たず、価値のない存在だと結論付けます

 健全で無害な嫉妬では、こだわりは好みに置き換えられます。例えば、「望むものを手に入れたいが、どうしても必要というわけではない」となります。

 低い不快耐性は高い不快耐性に置き換わります。例えば「欲しいものがなければ、生活は辛いかもしれないが、そんな生活にも耐えれるし、耐えることにも価値があると思う」となります

 全体的な低い自己評価は無条件の自己受容に置き換わります。「欲する物が手に入らないことは、快適ではないだろうが、それで私の人格が決められるわけではないし、わたしの価値は欲するものを手に入れたかどうかに左右されない」となります

嫉妬に対する中核的治療目標

 問題となる感情への介入とその必要性を理解しても効果が出ないクライエントがいます。そのような場合、嫉妬に絡んだ問題が潜在しているかもしれません

 自分の役に立つとわかっていながらホームワークをやってこない時、嫉妬が影響しているかもしれません。例えば治療に必要な努力をしない時は、同じような問題を持たない人や気楽に生活をしている人への嫉妬が理由かもしれません

 まず嫉妬が健全か不健全かを検討します。嫉妬が自己破壊的な行動をもたらしているかを振り返ります

 次に嫉妬の対象をはっきりさせます。Aを明確にするプロセスになります。所有に関連しているなら簡単に上げられます。他者の特性や生活スタイルに関するものは、嫉妬の対象を見つけることが難しくなります。その場合は推論と評価を使ってAに至る方法がいいです

 説明できない時は、特性や抽象的なものに対する嫉妬かもしれません。「何がそんなに不公平だと思うのですか?」と尋ねるとAが見つかります。

 CとAがはっきりすれば嫉妬をもたらす思考や信念Bを引き出します。推論連想法や下向き矢印法を使ってさらに推論と評価を見つけます。「どんな気分で嫉妬していますか?」という質問は役に立ちます

 推論と評価が見つかれば代替信念を見つけます。役に立つ無害な嫉妬を感じるように、論理的で機能的な思考や信念を作り上げることを目標にします

 「みんなは自分よりも幸せだ」という推論は、クライエントが注目した分野における他者の幸福を意味します。幸福をもっと正確に特定します。昇進では運がよかったものの、他の点ではそれほど幸運ではないかもしれません。

 どのように昇進に至ったのかについて、別の仮説を作ることが出来るように支援します。例えば仕事への態度や能力です。このプロセスは無害な嫉妬を体験し、自分も昇進できるよう努力するときに光を与えることになるので重要です

 嫉妬がメタ感情の問題になっていれば、有害な嫉妬が無害な嫉妬に向かって変化していることを繰り返し確認することが大切です。自己破壊的で有害な嫉妬に容易に戻ってしまうので確認が大切です。ライバルや嫉妬対象が急に変化した時に起こります


 この本の嫉妬で扱っている部分は、これまでだと落ち込みや無力感といったうつ症状の1部としていた所のように思う。それを不健全な嫉妬に分類することで改善が加速するのかはわからないけれど、嫉妬に特徴的な状況や認知を知っておくということは役に立つし、落ち込みに寄与する認知がごちゃごちゃしてしまうのを防ぐと思う。嫉妬の認知モデルは、「こう考えて次にこう考える」という思考の連鎖が続くので介入しやすいですね。ABCのCに認知が入ることが特徴的です。「運がよかった」という理由づけは不健全な嫉妬を緩和するけど、健全な嫉妬に置き換わるのを妨害するようです

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